国際分業システムの変容と雇用・労働問題
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― ジェンダーの視点から ―
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河 内 優 子
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I. はじめに 経済のグローバル化の進展に伴い,今日, 国際的な経済関係は大きく変動しつつある。 財の国際間移動である外国貿易,資本の国際間移動である海外投資,労働力の国際間移動である移民・外国人労働の動きなど,世界的規模に展開するかつてないダイナミズムの中で,国際分業のあり様は,ドラスティックな変貌を遂げているのである。 それは国際分業システムの抜本的再編成にほかならず,各国,各地域の労働市場への影響も甚大なものとなっている。世界的に様々な領域で深刻化しつつある近年の失業問題, 労働条件の劣悪化,あるいは労働市場の新たな階層化問題など,今や世界の雇用・労働問題は,程度の差はあれ,また直接・間接の違いはあれ,この経済のグローバル化との関連性ぬきに語りえない場合が実に多い。ここ10年余,私は「雇用・労働の視点からみる国際経済」を研究テーマとしてきたが,それはまさにこうした問題認識に根差すものなのである。 本稿は,国内研修期間 (平成13年4月〜9月) 中,これまでの研究蓄積の上に新たにジェンダーの視点を導入して試みた若干の検討・考察を,ごく大まかにまとめたものである。 |
II. 経済のグローバル化と国際分業システ ムの変化 かつて資本主義世界の国際分業は,南北間農工分業によって典型的に特徴付けられてきた。だが1960年代以降,自由化が進む世界に展開する資本蓄積運動の本格的な国際化は, 多国籍企業のグローバルな事業展開をおし進め,工業の生産の場が先進的工業地域から発展途上地域へ移転・再配置されるとともに, 途上諸国での世界市場向け工業製品の生産・輸出は急速に進展していった。これは資本主義の歴史上,画期的事態であり,70年代後半, F.フレーベルらによって「新国際分業(the New International Division of Labour:NIDL) 」として概念化された注1)。 彼らはこのNIDLにおいて,工業の生産過程が多くの部分的な工程に分割・断片化され,その部分的生産は各企業のグローバル戦略上,最も有利な地域に世界的に配置されること,その部分的工程を担う途上地域は,輸出加工区に典型的にみられるように,もっぱら労働力供給源としての位置づけにとどめられること,その一方で,こうした動きが先進諸国の産業の空洞化,サービス経済化を進行させ,産業の再編成 (Restructuring)に伴う労働市場への調整圧力となって大量失業を生起せしめることなど,広く世界的に確認される諸事象に着目し,従来型の伝統的国際分業システムとの相違を強調した。 |
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