経済時系列データの分析と経済モデルの構築
― インパルス応答の漸近挙動を用いた金融波及効果の定量分析 ―
 
 
森 田 洋 二 
 
概要
 日本における金融政策波及効果を考察する。(GDP,マネーサプライ,銀行貸出)をl(1)変数,金利r(t)を定常l(0)または非定常l(1)変数として,VECモデルを構築する。金利が定常なときはr(t)にインパルスショックを与え,非定常な金利の場合は△r(t)にインパルスショックを与えて,1次差分プロセ ス(成長率)の応答を求める。この応答の累積を計算して各レベル変数のインパルス応答がノンゼロの定数に収束することが示される。共和分の有無に関わり無く(GDP,マネーサプライ,銀行貸出)の漸近値相互間の代数関係が与えられる。これによってGDPの漸近値に対するマネーサプライ,銀行貸出の貢献度が明らかにされ,併せて,マネーサプライからGDPへの経路において,銀行貸出を経由する場合と経由しない場合の貢献度を識別する不等式が[1975,1997]の期間において与えられた。この期間ではクレディット チャンネルに対して,マネーチャンネルの優位性が示された。

キーワード  インパルス応答,単位根,金融,波及
        
JELコード  E44,E52,E58

1 緒言
 金融政策の波及メカニズムに対する伝統的な考えは,標準的なIS-LSモデルを想定し,金融政策の最初のインパクトは銀行のバランスシートの負債側に生じるとみなしており,資産側に生じる変化は無視している。ここでは「貨幣」対「その他資産」という分類がなされており,準備は預金に対して保有され,したがって準備の減少は預金の減少をもたらし,それが名目金利の上昇を促すと考えられている。このような伝統的な金融政策の波及メカニズムをマネー・ビューと呼ぶ。他方,銀行の貸付行動が実体経済に及ぼす影響を重視する考え方がある。これは,貸付市場における情報の非対称性に注目するもので,金融政策の最初のインパクトは銀行のバランスシートの資産側に生じることになる。このように波及メカニズムを銀行の資産側に焦点をあてて分析する考え方をクレディット・ビューとい う。Bernanke[1]は構造型VARモデルを用いて銀行貸出におけるショックが総需要に強い影響を持つことを示した。さらにBernankeとBlinder[2]は構造型モデルは同定上の前提条件に対し非常に左右されやすいことを指摘したうえで,失業率と銀行貸出はフェデラルレート変動の後に,ともに動くという事実から,銀行貸出が波及メカニズムの重要な要素であると結論付けた。
 
*この研究は,京都学園大学経済学部教授 宮川重義氏と共同で行ったものである。

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