効果がある。slの頭韻が三つとsのそれが続
く。 ・造語
chirruped という言葉は,chirpより出た造語で,こおろぎの鳴く声をなるべく微妙に写し出そうとする努力から出た言葉である。またそもそも「第一章」にChirp the First と章にこおろぎの鳴き声を当てている。 むすび 以上,Dickensのレトリックを目にとまるままにとりあげてみた。このようなレトリッ クによって,この作品の登場人物たちの心情が微細にわたって理解でき、作品の内容と価値がより一層豊かになると思われる。 とは言えそれは複雑なニュアンスを含んでいて,挿し絵も含めるとOxford版で七十数頁もある作品で飛び飛びにしか紹介できず,前後関係がはっきりしないために話の筋を充分理解できないことから,そのレトリックそのものが分かりにくくなる恨みがあるが,各引用で前後関係を充分説明し,難解な言葉にはなるべく注を付けたので,或る程度の内容と話の雰囲気が分かっていただけたと思う。 こうして物語の最後で,今までのレトリックを締めくくるにふさわしいような最大のレトリックに読者はぶつかることになる。自由間接話法のところでも,語りと話法の面から述べたが,最後でクリスマスにふさわしいあの楽しいダンスの情景が突如として霧散し,著者の私がただー人取り残され,私に見える ものはただ炉端で歌うl匹のこおろぎと床に |
ころがる壊れた玩具一つだけだったという描写である。ここに至って読者は日本の古典劇である夢幻能にも似た体験をすることになる。そしてヴィクトリア朝の持つペーソスを一瞬にして感じ取るのである。 私の研修の当初の課題はディケンズとその時代を幅広く研究することだったが,研究を進めていくうちに,時代とその精神を写し出す彼の言葉,レトリックに興味が深まり,そ れに集中することとなった。そしてそれを探究する中で,そのレトリックを通して感じ取られるヴィクトリア朝の人々の多彩な心情に触れ,「幅広く」とまではいかなくとも,活気あふれる時代精神の一端に触れることができ たと思う。 参考文献 Charles Dickens. Christmas Books, Oxford: Oxford U.P., 1997. Connor, Steven. (ed.) Charles Dickens. Lon- don / New York: Longman, 1996. Davis, Paul. The Penguin Dickens Compan- ion. Penguin, 1999. Holisbaum, Philip. A Reader's Guide to Charles Dickens. Themes and Hudson, 1972. Jaffe, Audrey. Vanishing Points Dickens, Nar- rative, and the Subject of Omniscience. Los Angeles / Oxford: University of California Press, 1991. Mcknight, Natalie, Idiots, Madmen, and Other Prisoners in Dickens. New York: St. Martin's Press, 1993. Schlicke, Paul. Oxford Reader's Companion to Dickens. Oxford U.P., 1999. Waters, Catherine. Dickens and the Politics of the Family. Cambridge U.P., 1997. |
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