そしてこれらの実践と思想には人間存在を体とこころ,さらには霊のレベルまで含んだ一つの有機体の全体としてとらえ,その全体への回帰を促そうという傾向がまず挙げられる。次いで強調されるのはこれらの個体は彼らを取り巻く環境,あるいは世界,さらにいえば自然との調和が必須のものと考えられている。第三に,下位文化(サブカルチャー)としての側面である。近代的医療や保健から見ても,あるいは伝統的な宗教から見ても,「傍流の」「周辺の」「異端的な」というレッテルを免れない。そして第四に近代への代替性(オルタナティブ)を共通点として挙げられよう16)。そして本論では触れなかったが,内観療法もこのような近代日本における癒しの系譜に連なるものであろうと考えられる。それらについては今後の検討課題である。 V.おわりにあたって 現代は科学万能の時代である。そこでは合理的な思考が尊ばれ,苦悩することや不安,抑うつなどの不快な感情は注意深く取り除こうとされる。そして悩む人たちに対してさまざまな精神医学からの病名がつけられ,それらはまた薬物療法の対象とされる。つまり苦悩の医療化が起こってきたのである。 しかしこのようなことからわれわれの生きるに当っての苦悩が解説されたわけでない。むしろそれらの苦悩はわれわれの人生から切り離そうとすればするほど逆にその力を増していくようである。 このような時代的背景からもこれらの近代日本における癒しの系譜はまた現代に再び脚光をあびようとしている。 |
文 献 1)藍沢鎮雄:『日本文化と精神構造』太陽出版, 東京(1975) 2)江藤淳:『夏目漱石』新潮社,東京(1979) 3)北西憲二:『我執の病理』白揚社,東京(2001) 4)近藤喬一:「森田療法の発見」精神療法15 (3):218−226 5)許抗生,王建華:「森田心理療法と老子。「道 法自然」の思想」メンタルヘルス岡本記念財 団研究助成報告集 1990。3;287〜292。 (1991) 6)森三樹三郎:『老子・荘子』講談社,東京 (1994) 7)森田正馬:『精神療法講義』森田正馬全集, 高良武久,他(編),第1巻,pp509−638, 白揚社,東京(1922/1974) 8)森田正馬:『神経衰弱及強迫観念の根治法』 森田正馬全集,高良武久,他(編),第2巻, pp71−282,白揚社,東京(1926/1974) 9)中村雄二郎:『西田哲学』中村雄二郎著作集 VII,岩波書店,東京(1993) 10)島薗進:『<癒す知>の系譜』吉川弘文館。 東京(2003) 11)大原健士郎,藍沢鎮雄,岩井寛:『森田療法』 文光堂,東京(1970) 12)鈴木貞美:『「生命」で読む日本近代』NHK ブックス,東京(1996) 13)王祖承:「中国における精神療法の歴史と現 状―特に森田療法について―」森田療法学 会誌,6:37−41。1995年 14)相良亨:『日本の思想』ペリカン社,東京, (1989)。 |
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