と,ここには現実と非現実とが交錯し,大層ドラマチックである。あるいは次のようにも考えられる。MayとEdwardが踊り始めてからは時制は現在形となり,この時点で物語は終って後はエピローグとなり,話し手が直接観客・読者に終りの挨拶を送る時である。現 在形は話し手から読者への,直接の語りなのである。そしていよいよ最後に書斎で,作者が一人でこの物語を書き終える場面がくる。 これこそは語りの名手としてのDickensに相応しい幕切れである。最後の方でEdwardとMayの結婚が終わり,両親たちが一緒になったところで共に挨拶などが行われている時,作者はDotの可愛らしいホステスぶりを述べて,

 I wouldn't have missed Dot, doing the honours in her wedding-gown,my benison on her bright face! for any money.(lbid., p.232)
注:doing the honours 主人役を演じる
  benison 祝福
  for any money どんなことがあっても






これは地の文である。ここにもI,my,!,な ど,自由間接話法の要素がある。これに続く突然の出来事としてTackletonの遣いが入っ て来て,次のような会話が交わされる。

 ‘Mr. Tackleton's compliments, and a she hasn't got no use for the cake himself, p'raps you'll eat it.'
 And with those words, he walked off.
 There was some surprise among the company, as you mayima gine. (Ibid.,p.232)
 注: Mr. Tackleton's compliments タックルトン
   さんからよろしく



hasn't got no use=has no use.


後の方のyouがここでは読者として使われている。

 3. ドラマ性
 こうして語りや自由間接話法は,作品にドラマ的性格を与えることになるが,次のよう に色々な形をなして表れている。
・言い切らない文体
 自由間接話法はさらに発展して,言い切ら ない文体となる。やかんとこおろぎとが音の出し比べの競争をしている。下文のthe excitement of a race はその事を述べている。こ のような内容自体,クリスマスの物語として 大層ふさわしく,読む者の心を和ませるものであるが,その表現の仕方がまた興味深い。

 There was all the excitement of a race about it. Chirp, chirp, chirp! Cricket a mile ahead. Hum, hum, hum- m-m! Kettle making play in the distance, like a great top. Chirp, chirp, chirp! Cricket round the corner. Hum, hum, hum- m-m! (lbid., p.162)







上の1行目の後の方以後は「言い切らない文体」ということができる。つまり述語動詞がないのである。すべて状況語的な言い方で終わっている。また Chirp,chirp,chirp! にして も,言わば裸の表現であり,読者にそのまま伝わってくる。従ってこれは自由間接話法の一つであると言うことができる。この種の表現が至る所にある。
 さらに,巧みな自由間接話法は或る人物の言葉を地の文に感じさせる。
 - 5 -
<<back    next>>