体制を整えている。以上から,送迎バスは,路線バスに変わるのみではなく,柔軟な対応を可能性とする点において,便利な通勤手段として認識されている。また,ルートの複数化は,石狩市だけではなく札幌市手稲区や北区の地域住民に対して雇用機会を増加させた。とりわけ,自家用車の保有が低いと考えられる中高年女性に支持された。

 VI おわりに
 以上,本研究では,石狩湾新港地域開発計画の展開に触れ,道内基幹工業である食品工業の動向を明らかにし,調査地域に位置する地元資本の食品企業を取り上げ,考察してきた。その結果,地域開発計画食品工業,調査企業に関する地域的特色や地域連関を以下のようにまとめることができる。
1. 石狩湾新港地域は,明治期以降,いくつかの開拓・開発が計画されたが実現に至らなかった。戦後,木材需要の拡大に伴う外材輸入の必要性をきっかけとし,港湾建設と後背地の土地利用を含んだ地域開発計画が具体化した。開発は,日本経済の影響を受けながらも,土地分譲や企業立地を増加し,一定の成果を挙げた。立地企業の業種は,道内基幹工業である木材,住宅,食品工業の分野で多い。平成期に入ると,開発面積の約6割の土地分譲に成功しながら,不況の長期化の影響を受け,未分譲地を売約できず,土地開発企業の経営破たんを招いた。以後,民事再生案を基礎に新たな方法を加え土地分譲を再開している。
2. 北海道における食品工業は,事業所数,従業員数,出荷額において基幹工業の地位を維
持している。他方,その推移は,バブル経済期や平成不況期の影響を受け,その数を増減させた。また,零細企業の占める割合が高いことから,平成不況期では,それら企業において,倒産や規模縮小といった動きが深刻である可能性が高い。さらに,加工原料において,農差物と水産物の格差は拡大しつつあり,とりわけ水産物の低迷が目立つ。
3. 調査企業のK企業は,道内資本の食品工業である。K企業は,道内大手流通小売業のS企業のグループ傘下にあったが,完全独立を果たし,関連企業の位置付けにある。こうした動きは,S企業を取り巻く経営環境の急速な変化によって生じたものであり,その過程で生産工場という性格を強めた。原材料は,出来る限り北海道産を使用する姿勢が強い。他方,販売先は道内都市部を中心に道外にも広がっている。しかしながら,これらの販売先地域は,主としてS企業または関連企業の立地先であり,必ずしも企業意想によって決定したものではない。ただ,製品名では,地元企業として地域貢献しようとする企業意想を確認できる。
4. K企業の地域労働力は,現業部門での女性従業員への依存と,定年退職後の継続雇用という点で特徴を有する。また,女性従業員の多い点は,社としての通勤手段の支援が大きい。石狩湾新港地域は,公共交通機関が限られ通勤手段の制約がある。その対策として,定期的な送迎バスを運行した。また,ルートや運行時間を複数化した。その結果,従業者の地理的空間の拡大,就労時間の柔軟性を生み,就業機会を増やすことに貢献した。今後は,他の業種や道外資本の企業調査を進め,相違点や共通点(類似点)を確認していきたい。
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