地域生活への「移行」そのものに主たる関心が向けられていたものが,今日では地域でどのような生活を送っているのか,その「生活の質」に関心の中心が移りつつあるとも言えよう。そして,筆者は,ノーマライゼーションが目指す「あたりまえの生活」実現のためには,生活の場を地域におくこと,また,上述の生活水準向上への努力にとどまらず,日常生活の中身,すなわちこの 「生活の質」を問うていかねばならないと考 えている。
 たとえば,移行後の支援のあり方も「何でもしてもらう生活,利用者は「目的もなく待つ」,言い換えると「リラックスしている」と表現される」ホテルモデルにとどまってしまうようなものであることも考えられる。
 しかし,今こそ,障害のある当事者自身が一歩一歩自らの生活に主体的に取り組んでいきうるような,これまで経験したこともなく蓄積されてもいない支援のあり方を探求し,どのように豊かな生活を創り上げうるかが課題となっているのである。
 ところで,この「生活の質」の向上を図るためにはどのようにしたらよいかについては,河東田博らの調査研究が提起している 「知的障害をもつ人たちの生活環境を適切に整え,彼らがその人らしくノーマルな生活を 送ることができれば,彼らの「生活の質」は向上する」という仮説の下に示された「ノーマライゼーションの具現化と「生活の質」との関係第五次モデル」(注24) は示唆的である。これを使いながら,考察を試みていきたい。
 この研究によれば,「生活環境を適切に整える」ことに関しては,五つのことを必要条件としてあげている。まず「ノーマルな生活環境を得る」こと,そしてそれを利用し得る「機能性」が重要であることを指摘し,障害のために制限されている「機能性」に対してはそれを補う「個人的支援」が不可欠
であること,また,生活主体者である本人が自分の生活や人生を自分自身でコーディネートするための意思や好みをもつという「心理的前提条件」が保障されるべきことを,さらには,その意思や好みに基づく本人の決定権を十分配慮しながら尊重していく「環境からの反応」 も求められること,である。
 ここで言う「生活環境」については,この河東田博らの調査において,環境的側面・内的側面いずれの関連においても,「入所施設」 より「親と同居」が,それより「グループホ ーム」が,さらにはそれよりも,「自活」という居住形態が,ほとんどの項日で「生活の質」 の高いことを示しているという(注25)
 ここで,上記の研究成果である「生活の質」 の向上を目指した「生活環境を適切に整える」ためには,上で述べた「ノーマルな生活環境を得る」ということからはじまり,「機能性」「個人的支援」「心理的前提条件」「環境からの反応」という五つの条件に即して,支援が必要となってこよう。
 まず,「ノーマルな生活環境を得る」ことに関しては,「親と同居」よりも「グループホー ム」という生活環境がよいということを述べたが,「グループホーム」は最終目標でなく,「自活」も視野に入れた環境整備と,それを選択肢に入れた支援が必要となってこよう。
 また,「ノーマルな生活環境」を利用し得る 「機能性」については,障害のある当事者が求 める時に対応できるメニューの内容と質の 「リハビリテーション」サービスが,身近な地域に用意される必要がある。
 その人がもつ障害による制限を補う「個別 の支援」は,継続性・一貫性ある支援で,かつ,本人の思いや希望に沿って提供されることが必要となっ
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