「ナショナルシチズンシップ」を超えたグローバルレベルのシチズンシップを現す同義語として扱うこととする。

 2. 「シチズンシップ」概念について
 ヨーロッパにおける「シチズンシップ」概念の起源は,古代ギリシャ時代まで,さかのぼることができる。 Landrum(2000)は,グレコ・ローマン時代から20世紀にかけて,人々が段階的に‘Civic-republican' , ‘Liberal individual',‘Social citizenship' モデルの3種類の「シチズンシップ」概念を発達させていったことを論じている。‘Civic-republican' モデルの起源はグレコ・ローマン時代にある。この時代に人々は,コミュニティの一員として生活するなかで,コミュニティの成員としての意識を持つことと,コミュニティのために貢献することがシチズンシップの意味するところであると考えるようになった。17世紀になると人々は,政府と市民の間の互恵的な関係を認識し始め,その後の市民革命を通して,国民国家を形成発展させていった。 ‘Liberal individual' モデルは,この過程の中で育まれた。人々は自由権と参政権を獲得し,国民国家によって保障される合法的な政治的権利を含みこむ「シチズンシップ」概念を発達させた。20世紀の中頃Marshall(1950) によって提示された‘Social citizenship' モデルも,「シチズンシップ」概念を,国民国家政府という機関によって保証される,合法的な政治的権利を含蓄するものとして捕らえている。Landrum(2000)は,Marshallが合法的な政治的権利を,‘Civil Citizenship' ,‘Political Citizenship' ,'Social Citizenship'の3つに分類していると指摘している。‘Civil Citizenship'とは,市民には個人の自由が
あり,法の支配の下にあることを意味する。‘Political Citizenship'は,人々が参政権を通して,政治的な意思決定の過程に参加する権利を有することを示す。‘Social Citizenship'は適切な生活水準が市民には保証されなければならないことを意昧している。
 以上のことから,「シチズンシップ」概念は,3つの構成要素から成り立っていると言えるであろう。第一は,コミュニティへの帰属意識であり,第二は,コミュニティへの貢献,或いは責任,そして第三は,国家政府という機関によって保証される合法的な政治的権利,及びその権利の行使である。

 3. 20世紀における「グローバルシチズン
  シップ」概念 ―その社会的背景―

 Dower(2002 a)が指摘するように,20世紀後半の地球的諸問題の顕在化やグローバリゼーションの進行は,人々の「グローバルシチズンシップ」概念への関心を高めた。1970年代頃より,貧困,資源枯渇,環境破壊,人権侵害などの全人類に影響を及ぼす地球的諸問題が明らかとなると同時に,これらの問題は各国がそれぞれ独自に解決できる問題でないことが認織されるようになっていった。こうした状況の中で,「ナショナルシチズン」を超えた「グローバルシチズン」として自分自身を意識する人々が現れはじめる。また,人, 物,資本,情報,文化,技術などあらゆるものが,国民国家の境界を越えて行きかうグローバリゼーションが1970年代以降加速化したことも,人々の「グローバルシチズン」意識を促すことに一役買っているといえよう。
 そして,経済,政治,テクノロジーなどの,複雑な地球規模の相互依存性を増大させる
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