簿記会計教育論の構築にむけて
 
 
河  内    満  
 
1.はじめに
 大学教育という公的教育機関から経済祉会に巣立っていく学生に簿記,会計に関する科目群を専門教育として何をどこまで,どのように教えればよいのか。また,教養教育として簿記,会計の何をどこまで教えればよいのか。これらのことについての明確な基準はない。大学教育として,簿記は簿記,会計は会計と区別する教育は実情にあったものではないだろう。とかく学生やその家族の簿記,会計に関する教育への期待は,職業資格の取得や検定合格等の形として目に見えるものに集中する傾向がある。もちろん,大学教育としてこれらの期待に応えるよう努力することを否定するものではないが,学生の卒業後の多様な進路を考慮すると,大学教育として学生には,現実の複雑な会計現象への対応や実務での応用力を身に付けるための基礎的・基本的な能力の育成が求められているのではないか。大学教育で行われている現状の簿記,会計に関する教育を簿記と会計を一体のものとして教育する簿記会計教育について検討してみる。

 2.簿記と会計
(1)簿記,会計,教育
 簿記とは何か,会計とは何かという統一した定義づけは困難である。特に会計の統一した定義づけについては,会計の時代性,国家性という特
質からして極めて困難であろう 1)。その理由は,定義づけることは研究者としての自らの立場を明らかにすること,また,教育上の定義づけは教育のレベルに関するもので,教育対象をどこに設定するかによって異なるものである。このような前提に立てば,簿記,会計に関する導入教育段階における定義づけのヒントは,文部科学省検定済教科(以下,検定教科書と略称する。)のうちにある。簿記や会計の教科書は数多く出版されているが,国家検定に合格した高等学校商業科用『簿記』,『会計』の検定教科書は,高等学校学習指導要領に基づいた一般的な教育内容に配慮しているという意味において,特に『簿記』については標準的な教科書といっても差し支えないだろう。
 高等学校教科書「商業」の主要な『簿記』教科書による簿記の定義づけは,「簿記(bookkeeping)は,この経営活動を一定のルールにしたがって帳簿に,記録・計算・整理する技術である 2)」。」,「このように,企業のさまざまな経営活動を帳簿に記録・計算・整理する方法を簿記(bookkeeping)という 3)。」であり,簿記とは,経営活動を一定のルールにしたがって帳簿に,記録・計算・整理する技術や方法であるといえる。また,会計については,「これらの経済主体の活動やこれに関することがらを一定のルールで,記録・計算・整理し,報告する手続を会計という。とくに,その経済主体が企業の場合,そこで用いられ
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