(取引)
 簿記会計を学んだことのない学生にとって,複式簿記は高等学校教育の学習の継続性の中では理解しがたいものであろう、例えば,取引概念においても一般常識としての取引とは異ものがある。売買契約そのものは簿記上の取引に当らないし,火事による倉庫の消失は取引に当る。簿記上の取引は金額によって把握され,資産,負債,資本,収益,費用に直接影響を与えるかどうかによって決まるからである。
(仕訳)
 仕訳とは,企業を経営する上で発生するどのように複雑な取引をも解き明かし,明確な形で複式簿記の規則にのせるためのものである。仕訳に込められた意味とは,例えば,売上代金の回収においても,現金か,小切手か,売掛金か,受取手形という選択の中にビジネス取引の実態を読み取ることである。
(会計処理の選択)
 会計処理に選択の余地があることを簿記の技術的な問題としてのみとらえるのではなく会計について考える機会とする。棚卸資産の評価は,資金が姿を変えて倉庫に横たわっていると実感できた時,新たな発見が生まれる。モノをモノとして管理する場合とモノを資金の化身として管理する場合とでは金利や保管費用等の発生を含めて在庫管理の資金的意味を理解することに違いがでてくる。
(コスト意識)
 現実の企業経営の問題,課題を明らかにする内容をすべての簿記会計教育サイクルに導入する。コストダウンは企業の英知の結晶であり,販
売・購買・経理・労務のすべての努力が凝縮されたものである。
(資金の流れ)
 企業にとって,損益面での一時的な損失の発生は直ちに倒産に結びつかないが,資金繰りの失敗は事実上の倒産に追い込まれる。この差は収益の発生と代金の回収,費用の発生と代金の支払いとの時間的なずれに原因がある。
(実務への対応)
 実務の世界は,すべて現実から出発する。実務では理論的な理解だけではなく具体的・実践的な対応と成果が求められる。このような意味において実務は常に応用問題であり具体的な事実関係を押さえ原理・原則に基づいて処理する能力と姿勢が必要である。
 また,会社の経理部門で働く人材としてまず必要とされるものは,経理人としての職業倫理観がある。もともと商取引は人と人との信頼関係を基盤として成り立ち,そこではまず人としての誠実性,信頼性が基本となる。その上で経理業務を遂行していくのに必要な簿記会計の専門知識や技術さらに職務上の公正さ,正確さ,迅速さが要求される。会社の経理部門には企業内外の情報が集まり,対外的に配慮の必要なものや経理関係書類の取扱い等にも細心の注意を払う必要がある。
(コンピュータ)
 簿記会計実務には簿記会計の専門知識と技術は不可欠である。しかし,コンピュータの導入は,そのハードウェアの発展と豊富なソフトウェアによって旧来の経理の仕事内容を一変させ,日常業務においては必ずしも簿記会計の知識と技術を
 - 13 -
<<back    next>>