3)教育内容サイクル 学部における専門教育の特徴はゼミ教育である。ゼミ教育以外で,簿記会計教育によって育成する知識,技能,態度の倫理観到達度をどこに求めるかということになると,それぞれの学生や学部・学科の教育目的の必要度によるケース・バイ・ケースと言わざるをえない。このような教育要求に答えるためには,簿記会計関連科目間の教育内容の調整を図り学生の希望する学習内容の幅に配慮した簿記会計教育としての各サイクルが積み重なりどの段階で学習が終了しても,簿記会計教育として一応の完成をみるように教育内容が構成されなければならない。 (3)教養教育としての簿記会計教育 1)教養教育の必要性 経済社会における個人の独立は,自らの責任で,収入と支出を管理・運営する意思と能力を持つことによって成り立つのである。しかも,経済社会における個人は経済社会で生活する私人として家庭生活を送り,経済社会を構成する社会人として社会生活を送り,経済社会で仕事をする職業人として職業生活を送る側面を有し,各個人は,これらの側面を共有もしくは共有せざるおえない。教養教育 25)としての簿記会計教育は,個人が経済社会で生きていくことに不可欠なこの三つの側面に何らかのかたちで役立つものでなければならない。個人や事業体が経済単位として独立性を維持するためには収入と支出の合理的な調和は不可欠である。しかし,単なる収支決算であれば大学教育で取り扱う必要はない。教養教育としての簿記会計教育は,個人の収支決算を対象とするものではなく,企業会計を理解するための素養を身に着けることにある。製造業はもちろん,農業であれ水産業であれ,およそ事業の経営に携わるものは,記帳・計算・整理という一連 |
の作業による財産の管理,運営し,利益の確定をし,財務諸表を作成するとともに金計監査を受け,外部に会計報告を行い,その会計報告によって会計責任を果たす。この一連の手続きを大学における教養教育 26)としての簿記会計教育内容を組み立てなければならない。 2)教養教育の広がり 教養教育としての簿記会計教育の対象者は,理系・文系を問わず様々な学部・学科にわたり,簿記会計教育内容についても所属学部・学科の判断によるが簿記会計教育の学習サイクルは存在する。最低限のものであっても,複式簿記の基本原理を帳簿記入という作業を基にして学び,財政状態を表す貸借対照表の作成と企業の経営成績を表す損益計算書の作成は外せない。この一連の作業の学習のなかで,会計倫理,会計責任について学ぶことが求められる。大学教育として簿記会計教育を受けたものは,いかなる学部・学科であれ簿記会計をとおして事業体の簿記会計の基本を身に付け,会計報告書を読み,その意味を理解できる基礎的・基本的な素養を身に付ける。このことは,現代の社会人としての常識として積極的に取り組んでいかなければならない。 おわりに 簿記,会計の理論,知識,技能は人類の長い歴史のなかで確立してきた。日常取引の把握,決算手続,貸借対照表,損益計算書を作成,財務諸表を公表し会計責任を果たす。この一連の手続は,簿記から入り,会計へという学習の流れとして,基礎的・基本的な学習から発展的・応用的な学習へという流れに符合するものである。具体的なものから抽象的なものに移り,会計学を基に,経済社会の複雑な会計現象を理解し,現実的な課題解決策の提示へと進むのである。このことは |
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