れている。実務には実践理論があり,実践方法が開発され,実務教育が行われている。 これらの多重構造は,基本的な教育目的の相違として各教育機関においても現れる。例えば,試算表という教育内容であっても,大学教育では会計学を学ぶための基礎・基本として,専修学校では検定合格や職業資格取得の一環として,高等学校の商業教育においては高等学校教育3年間での一応の完成をみることを前提とした簿記会計教育の一環として取り扱われている 9)。また,利潤追求の問題は,大学教育は資本主義社会の経済法則として経済社会の解明という真理の探究として,専修学校では現代の経済社会に与えられた与件として,高等学校の商業教育としては利潤追求,効率性重視の企業行動をそのまま直接に生徒に教授することは企業の論理を無批判に受け入れることに繋がり大きな疑問が残る等の配慮がなされ取り扱いに相違が出てくる 10)。一見混乱しているように見えるこれらの相違は,それぞれの教育機関がよって立つ設立目的 11)によっているのである。 (4)不易と流行 教育には不易と流行がある。不易とは時代,時の変化を超えて貫かれるものであり,流行とは地域性,国民性によって時代と共に変化していくものである 12)。不易と流行ということから簿記と会計を区別すると簿記の不易性と普遍性,会計の時代性と国家性ということがいえる。会計は時代性に富んだ科目であり,会計の内容は時代とともに変化しているが,複式簿記の基本原理は不易であるといえる。簿記と会計の特徴,相違については,「取引の記帳,決算,財務諸表の作成という簿記会計の手続は,そのまま簿記会計の系統発生でもある。取引の記帳に簿記の本領があり, |
財務諸表に会計の本領がある。決算は簿記から会計への移行領といえる。ここで,簿記の本領が日常の取引記帳にあることは忘れてはならない。取引の証拠記録としてはじまった簿記は,その本源的意義がやがて社会認識されて,近世商法に日記帳として制度化され,今日の会計帳簿の制度につながっている 13)。」というところにある。 簿記会計といった場合,不易の簿記と流行の会計が統合されたものといえるが,細かくみれば簿記にも複式簿記の基本原理という不易があり新たな会計現象を仕訳において捉えるという流行があり,会計にも利害関係者に情報提供するという不易があり国際会計基準の検討という流行がある。また,教育についても,いかに時代が変化しようとも人と人とのつながりを教えるという不易の部分と,教育そのものが持つ時代性,国家性という流行の部分をあわせ持っている。簿記,会計,教育の不易と流行の組み合わせが現在の簿記教育,会計教育を形作っている。 3.簿記会計教育 (1)簿記会計教育 簿記や会計は,その誕生を考えれば学理から生まれたものではない 14)。簿記と会計は一連の手続として売買の記録や売買に必要な知識や技能の伝承,各種の商取引を円滑かつ確実に実行する為に必要なもの,資金の提供者への事業報告の中から一般に公正妥当認められた会計原則(Generally Accepted Accounting Principles)等を形作ってきた。従って,簿記と会計に関する実務を束ねることによってはじめて,簿記会計教育としての命が与えられるのであり,簿記会計教育は,簿記と会計との繋がりを一連の教育内容として教授することによって成り立つものである。 |
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