社会では,個人や企業は決して孤立した存在ではなく,個人や企業は共同体に属していると同時に,その共同体も個人を離れて成立しえないという有機的な構成関係で捉える必要がある。ここに,個人や企業と社会との付き合い方の問題が生じ簿記会計教育の原点をみる。動的な経済社会に適応していく力は,言葉や文章で書かれた既成の知識群のみでは得られない。資金の流れを通して必要な知識,技能を理解し,活用する実践力を養う必要がある。ものごとを理解し,処理していくための適応力には,総合的・実際的な能力の育成が求められ,経済社会からのこの要請にこたえる教育のひとつが簿記会計教育である。
3)教育目標の設定
 簿記会計教育を行うにあたり決定的に重要なことは,教育を受ける教育対象をどこにおくかということである。教育対象を決めることにより,具体的に簿記会計教育の基本的な方向性とは何かという教育理念や教育目標の検討が可能となると同時に,簿記会計に関する教育内容,教育方法やカリキュラム編成等の検討が可能となるのである。
 簿記会計教育目標は,簿記会計教育のあるべき姿や理想を提示し,現実の教育を唱導するという大きな役割がある。教育目標は簿記会計に関する知識と技術の習得,簿記会計の基本的な仕組みについての理解,それを利用・活用する態度と倫理観の育成という三つの要素から成り立っている。簿記会計教育目標は,簿記会計教育の本質や性格を表し,教育内容として取り扱うべき領域や範囲,到達すべき内容の程度を示す合理的な簿記会計教育目標の設定は,独自の教育分野としての簿記会計教育を形成し,独自の教育目標,教育内容,教育方法を持つことになる。簿記会計に関する教育目的の設定については,高等学校学習指導要領が参考となる 15)
4)教育目標の連鎖
 ひとくちに簿記会計教育目標といっても,教育目標の連鎖を意識しなければならない。教育基本法は国家としての教育理念を示し,学校教育法は学校教育の目標を示している。また,大学を例にとれば,各大学は建学の精神のもとに,大学としての教育目標があり,その目標にそった学部教育の目標があり,その学部教育目標のもとに学科教育目標があり,その学科教育のもとに会計学関連科目群というまとまりとしての教育目標があり,その科目群としての目標のもとに各科目目標がある。また逆に,各科目目標は会計学関連科目群の目標を支え,その目標は学部・学科目標を支えることによって,個は全体を支え,全体は個を統合するという相互依存関係が成り立っている。これらの目標を束ねるのが教育の基本的方向性を示す教育理念である。この教育理念は大学の建学の精神や学部,学科の特徴に基づいている。学部・学科教育に関する目標の達成は,会計学のみではなく,経済学,経営学,商学等の関連ある学問の支えが不可欠である。また,それぞれの学問領域は,自己を中心として学際的という名のもとに自己増殖を重ねている。

 4.大学教育と簿記会計教育
(1)大学教育
 学校教育 16)として行う簿記会計教育と学校以で行う社会教育としての簿記会計教育の相違は,前者が人間教育の立場を主張するのに対し,後者は経済社会での主に実務的な要求に応じて必要な知識,技能,態度,倫理観の習得を目指すところにある。いずれにしろ教育は教授する教育内容を通じて,経済社会に対応できる人材の育成を図るのである。大学教育は学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を
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