2)会計処理能力
 簿記会計教育で育成する力は,会計書類を作成する日常業務,会計帳簿を計算・整理・集計する決算業務,そして出来上がった財務諸表を分析し理解する能力とこれらの能力の育成によって培われた態度,会計倫理観を常に意識し自らの課題を解決していく力である。
 具体的なものから抽象的なものへという学習の流れは,金額から数字への広がりをみせる。企業活動は,大量・複雑な日常取引より成り立っており,量の変化は質の変化を求める。質の変化とは,大量の取引を分類・整理し,正確・明瞭に会計処理する仕組み作りと仕事を維持・継続する能力や会計処理に伴う責任感の涵養である。この一連の教育内容をとおして,知識と技能が結びついた仕事への取り組み姿勢,簿記会計に関する倫理観の育成,さらに望ましい職業人の育成へと結びつく。
3)簿記会計教育のサイクル
 日常取引の把握,決算手続による財務諸表の作成,財務諸表の正当性を保証する会計監査,利害関係者への会計報告(開示),会計報告に伴う会計責任の終結という簿記会計の一連の手続を簿記会計教育の1サイクルとし,このサイクルを螺旋状に繰り返すことにより,発展的・応用的な教育内容へと昇華させていく。この1サイクルの教育内容は,教養教育科目,他学部関連科目,自学部・自学科科目,自学科コース制科目として学ぶ場合等の様々な状況においても,1つのサイクルとして自己完結するように検討された教育内容でなければならない。
 ここで前提にしている教育内容は,学部教育における簿記,簿記学,会計もしくは会計学の全体像,学問構成であるから,学そのものを研究対象とする研究者の育成を図るものではない。しかし,

大学院等に進学を希望するものにとっても,その動機付け,興味付けという意味での導入教育として,簿記会計教育のサイクルは成り立つのである。
(2)簿記会計教育の意義
1)人間教育としての簿記会計教育
 簿記会計教育は,大学のカリキュラム全体をとおして,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させ,好ましい勤労観・職業観の育成を目指すという大学教育の一般目的の基礎のうえに成り立っている。
2)真理の探究としての簿記会計教育
 大学教育は真理の探究の場である。物事の本質の解明により培われる深い思考力の育成には,簿記会計に関する理論,基本原理に基づいた基礎的・基本的な知識,技能,態度,倫理観の育成が求められる。
3)実学教育としての簿記会計教育
 簿記会計の学習には,簿記会計手続についての実際的・体験的な学習は欠かせない。簿記会計教育の目的は,簿記会計に関する技能の養成,知識の習得,理論の理解を通して簿記会計に取り組む態度や倫理観を育成することによる実務への適応力を養うことである。実務で簿記会計に関する事業内容,仕事内容の説明を受けた時、その内容を正しく理解し自らが置かれている状況に適切に対応できる最低限の実践的応用力を身に付ける 22)
4)職業教育としての簿記会計教育
 職業教育とは,一定の職業に従事するために必要な知識,技能,態度の習得を目指す教育である。学生に好ましい勤労観・職業観の育成を図ることは,大学教育の社会的責任である 23)
 職業教育としての簿記会計教育の目標には
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